( 2013.01.19 )
「反日無罪」
 


 大阪の中堅商社から巨額の資金を流出させた 「 イトマン事件 」 などで戦後日本犯罪史に名を刻んだ韓国籍の許永中受刑者( 65 )。 石油卸会社から手形をだまし取った詐欺事件などで実刑判決を受け日本で服役していたが昨年12月、条約によって韓国に移送されていたことが明らかになった。 「 闇のフィクサー 」 の韓国移管をめぐり、韓国が 「 反日 」 を背景に特別恩赦や刑期短縮で早期に出所させるのではないか、と懸念する声が外交筋から上がっている。

 許受刑者については若干の説明が必要だろう。

 1991年、中堅商社イトマン( 大阪市 )を舞台に絵画投機やゴルフ場開発にからむ不正な経理操作をしたとして、商法の特別背任と法人税法違反の罪で逮捕された。 被害額の大きさから事件は 「 戦後最大規模の不正経理事件 」 などと呼ばれている。

 許受刑者は起訴後、6億円を積んで保釈されたが97年、韓国で妻の実家の法事に出るとして裁判所から旅行許可を得て渡韓。 ところが宿泊していたホテルで心臓病の発作が起きる。

 ソウル市内の大学付属病院に入院していたが、そこから逃亡。 保釈金が没収される。 99年11月に東京都港区のホテルにいるところを確認され、警視庁に身柄拘束されるまで潜伏していた。

 この間、弁護士や政治家、格闘家らとも会うなど 「 闇 」 の大物ぶりを発揮した。

 2001年、イトマン事件の一審で懲役7年7月・罰金5億円の判決を受け、上告。 05年10月に最高裁で棄却されて判決が確定。 さらに、石油卸会社の石橋産業から約180億円の手形をだまし取ったとする 「 石橋産業事件 」 でも懲役6年を言い渡され、上告。 しかし08年2月に上告が棄却され、加算刑期を含め関東地方の刑務所で服役していた ──。

 多くの人の記憶から忘れ去られるかに思えた 「 闇のフィクサー 」 はしかし、そのまま静かに余生を送るような男ではなかった。

 刑期の満了予定日である2014年9月まで2年を切った昨年12月。 外国人受刑者が母国の矯正施設での服役を希望し、許可を受けた場合に母国に移管される条約の制度を利用して、許受刑者はソウル近郊の刑務所に移管されていたのだ。

 日本の司法関係者によると、制度が適用されるケースは 「極めてまれ」 といい、 「移管が許されたこと自体、何らかの政治力が働いたと勘ぐりたくなる」 ほどだという。

 日本法務省は個別の案件、措置について外部からの照会に応じない慣例を今回も貫いているため、 「本国移管がなぜ許されたのか」 は当面ナゾだ。

 条約によって帰国すると二度と日本への入国は認められない。

 「 在日韓国人とはいえ、韓国語が決して堪能でない許受刑者にとって、帰国矯正という選択は、背に腹は代えられないぎりぎりの判断だったのではないか 」

 許受刑者と親しく、許受刑者に関する著作もあるジャーナリストはこう指摘する。

 にもかかわらず、韓国への移管を許受刑者自身は強く希望していたとする証言が、関係者からは多く上がっている。 許受刑者の狙いはなにか。

 日韓の治安機関筋は 「 許受刑者の最近の発言などから分析すると、許受刑者は韓国に移管されれば、特別赦免( 恩赦 )や、仮釈放が早期に得られる可能性が高いとみているふしがある 」 と指摘する。

 韓国では大統領任期が満了する5年ごとに大統領権限による刑の特別赦免制度がある。 許受刑者が恩赦の適用対象者となる可能性はあるのだろうか。

 恩赦をめぐっては、李明博大統領に対して、民間団体などが複数の受刑者を対象に適用を求める動きがあるが、その中に、李大統領の元側近らが含まれていることから 「 身びいき 」 だとして、野党はもとより政権内部や朴槿恵次期政権からも激しい批判があがっている。 “部外者” である許受刑者に適用されることはない、とみるのが一般的だ。

 だが、 韓国の司法や現政権はこれまで数度にわたって 「反日だったら何でもあり」 の判断を繰り返してきた経緯がある。

 一昨年8月には韓国憲法裁判所が、日本の朝鮮半島統治時代の 「 慰安婦 」 について、日韓の国交正常化に伴う請求権協定によって消滅したはずの対日請求権を韓国政府が放置してきたとして政府に対して交渉を促す判決を下した。

 今年1月3日には、靖国神社に放火した容疑で警視庁が逮捕状を取って身柄引き渡しを求めていた中国籍の男について、日本ではなく中国に引き渡す判断を示した。

 外交筋は 「李政権はこうした判決や決定を司法の独立だとして追従。 国内の世論におもねるような司法判断に迎合する政権に、対日関係を修復する外交努力など期待できない」 と指摘する。

 そして 「許受刑者が 『日本で有罪を受けたのは在日差別によるものだった』 などと主張して恩赦を支持する声が高まった場合、韓国内には同情論こそあれ、恩赦に反対する声がでるだろうか」 と懸念を示している。

 許受刑者は日本で活動していた当時から韓国の有力財閥トップとの強固なパイプがある、と周辺に語っていた。

 「 万が一、恩赦がならなくとも、人脈をフル活用して早期の仮出所を狙うぐらいのことはするのではないか 」。 日韓の刑事司法に詳しい韓国の元検事は指摘している。

 早期の出所を狙って韓国に戻った許受刑者は、今後何を仕掛けようとしているのだろうか。

 前出のジャーナリストは 「 北朝鮮の資源に関わるビジネスに大きなチャンスを見いだしているようだ 」 と指摘する。

 許受刑者の動向から、今後も目が離せなくなりそうだ。