韓国の住民登録証



 韓国社会において住民登録証というものは単なる身分証ではない
 それは北朝鮮という 「敵」 と区別するための役割に加えて、あらゆる国民を統制、監視するための極めて 「効率的」 な制度である。
 この制度の内にはファシズムが潜んでいるのだ。

 全ての国民に10指の指紋を押捺するよう強制 し、 固有番号を付与し、それがキーとなって多くの 個人情報が蓄積され、国家によって管理される
 これは、明らかに民主主義に背くものだ。 しかし南北分断という状況の下で、それは当然受け容れるべきものとして内面化されてきた。
 国家権力による見えざる個人統制、その核心的なシステムたる住民登録証の根源的な問題点は ……。


1.大韓民国における身分証明・住民登録証

( 現行の住民登録証。左側が表面、右側が裏面 )
 大韓民国のあらゆる成人は住民登録証を持っている。 表には写真、名前、住民登録番号が記載されており、裏には右手親指の指紋が鮮明にプリントされている。「 この人は大韓民国のかくかくしかじかの人であることを証明する 」 という国民身分証となっているわけだ。
 なぜこのような身分証をつくり、「 見せろ 」 という人に見せなければならないのか?
 なぜ各自に固有の番号が付けられ、それを覚え、聞かれた人に対しては教えなければならないのか?
 なぜ犯罪者でもないのに国家に10指の指紋を捺さなければならないのか?
 疑問を呈さざるを得ない!
 多くの人は、他の国でもこのような身分証のようなものがあると信じており、身分証の存在を当然のものと思っている。 日常生活に必要不可欠なものであるという信念も大変強い。



2.いまさらスパイ識別のために?

( 「住民証をつくらなきゃスパイだ~!!」 )
 大韓民国の国民であることを国内でそれほど厳格に証明しなければならない理由はあるだろうか? 住民登録証の歴史は思ったよりも古くは遡らない。1968年1月12日、武装共産ゲリラの侵入事件によって国家の安保が動揺した。 そのどさくさにまぎれて、住民登録法が共和党の単独国会で通過してしまった。 この時から全国民を対象とした住民登録証が発給され、その後、指紋押捺と所持義務条項が追加された。 「 治安上必要な特別の場合には住民登録証を提示させることにより間諜や不順分子を容易に識別、索出し、反共の態勢を強化するために 」 ( 1970年1月1日、住民登録法第2次改正の理由書より )、住民登録証はつくられた。 それは、全国民が戦時の緊張感を持ち、「 おかしければもう一度見よ、怪しければ申告せよ 」 という冷戦時代の産物だった。1996年、政府は電子住民カードの発給を推進しようとしたが、市民団体の抵抗によって白紙化された。 ところが今度は1999年、ICチップを導入する代わりに、指紋を電算化しプラスチック住民登録証を発給するにいたった。 国家が国民を効率的に管理、統制する装置として機能しはじめたのである。 より重要なのは、こうした論理がよく見えてこないほど、住民登録が大韓民国の国民であれば当然しなければならないもので、日常生活をする上でも必要条件であると考えられている ことなのだ。



3.大韓民国の国民のバーコード住民登録番号と指紋

( 虎は死して革を残し、韓国人は死して番号を残す )
 日常的にしばしば経験する警察の不審尋問のとき、身分証をさっと出すことができなければひどい目に遭う。 ビデオ・レンタル店で会員に加入するときに住民登録番号を書かなければ、疑いのまなざしを向けられることになる。 軽微な道路交通法違反でも派出所の複写用紙に10指の指紋を捺さないと解放してくれない。 未来社会を想像するとき、よく頭にバーコードが刻印された従属人間を思い浮べたりするが、大韓民国は想像の産物ではない 住民登録番号と指紋は極めて詳細に個人情報を入力したバーコードである。 しかし住民登録番号と指紋を提供しておきながらも、私たちはこんな個人情報がやたらに利用されて飛び交っているという事実を認識することができないでいる。
 住民登録番号は生年月日を示す前6桁と、性別番号、出生地地域番号( 4桁 )、出生順番、エラー検出番号を加えた後7桁から成る。 住民登録証を発給する時に捺す10指の指紋は、その特有の模様によって分類され、個人毎に指紋番号が付与される。 住民登録番号を提示したり指紋を捺すということは、指紋番号やその番号の根拠となる個人情報を丸ごと提供するようなものだ。 国家は、指紋番号はいうまでもなく、住民登録番号を付与する根拠を全て公開してはいない。 国民の個人情報を国家が独占しているのだ。 インターネット・サイトで住民登録番号が要求されることは日々急増し、日常的な習慣となりつつある が、国家機関の薄暗い倉庫の中で私の情報がどのように用いられているのかは誰も知らない。



4.情報化社会の主人は国家?

 現代社会は情報社会である。 情報に境界はなく、所有が自由である。 だから誰がどのように活用するかにしたがって、多くの人々に利することもできるし、とんでもない危険と被害をもたらすこともできるのだ。 しかし、あたかも下着のように当然のごとく身につけている住民登録証と指紋番号は、誰がどのように活用しているのだろうか? 大韓民国憲法第17条は 「あらゆる国民は私生活の秘密と自由を侵害されない」 と明記している が、個人の情報は国家が主人となっており、いつ私生活の秘密と自由が侵害されるのかも分からない状態にある。そしてそれも知らないまま、指紋を捺せといえば捺し、住民登録証をまたつくれといえば作り、国家でしろということをそのままやっている。



5.習慣化されたファシズム

( 自らの住民登録証を眺める朴正熙 )
 ファシズムは制度や政権といった形態としてだけ存在するのではない。 日常化された習慣は、ファシズムが潜むための良き条件となっている。 「慣れてしまうのか、あるいは拒否するのか?」 ―― この選択が出発点だ。