( 2016.05.08 )
便
   

 韓国のトイレにあって日本のトイレにないもの。 それが便座の横に鎮座するごみ箱だ。 「 トイレットパーパーはごみ箱へ 」 と注意書きされていることもあり、臀部でんぶを拭き取り、汚物がこびり付いた紙をここに捨てろということだ。 韓国を訪れた外国人が驚く習慣のひとつで、 「見た目が悪く 不衛生だ」 と一部韓国人にも評判が悪い。 なぜ、こんな習慣があるのか ──。 韓国製トイレットパーパーは水に流れないとでもいうのか ──。 一方で、 「 ごみ箱のないトイレ 」 をと撤去する動きも広がり始めている。





ソウル市内にあるオフィスビル内のトイレの個室。
便座のわきに使用済みトイレットペーパー用のごみ箱が置かれている
 韓国は、2002年のサッカー・ワールドカップ( W杯 )の日韓共催を機に、公共トイレの整備が進んだこともあって、外国人も抵抗なく入れるトイレを至る所で目にし、トイレ探しで苦労させられることはあまりない。

 一方で、辟易へきえきさせられるのが、この便座の横のごみ箱の存在だ。 1990年代に留学した際、最も驚かされた習慣の一つだ。 それはいまもあまり変化がない。

 古めの公衆トイレは言うに及ばず、新しめのオフィスビルなどのトイレにも、便座の横に大小さまざまなごみ箱が設置されていることが多い。

 おまけに、ふたがないのがほとんどで、見たくなくとも、他人が拭き取った白いトイレットペーパーに付いた異物が目に飛び込んでくる。

 このごみ箱に自分が拭いた紙を捨てるのに非常に抵抗があった。 「 紙は便器に流さず、ごみ箱に 」 と注意書きされていることもあり、便器に紙を流すというありふれた行為をするのにも、なんだか罪悪感を感じてしまう。

 違和感を抱いていたのは、私だけではなかったようで、動画投稿サイトのユーチューブには、 Korean Toilet Paper と題し、便器の横のごみ箱に捨てられた汚物付きトイレットペーパーを映した映像とともに、 「冗談じゃない」 といった声がアップされていた。 2008年にカナダ人が投稿したというこの動画は、24万回近く再生された。

 韓国紙、中央日報は以前、この動画や、 「 韓国人はふたのないごみ箱に汚物が付いたトイレットペーパーを捨てる。 本当に気持ち悪い 」 といったインターネット上の外国人からの “苦情” を紹介。 一時、外国でもヒットした曲 「 江南カンナムスタイル 」 になぞらえて 「 Korean toilet style 」 と海外のネットで揶揄やゆされている状況を伝えていた。




 同紙は、中国や一部の南米の国を除いて、便器の横にごみ箱を置く国はほとんどなく、「韓国独特の文化だ」と指摘する。
 「 使用したトイレットペーパーを露出させておけば、美観上よくないうえ、細菌が繁殖したり、においがしたりする 」 というトイレ文化市民連帯という団体の代表の解説も紹介した。

「どこの誰だか分からない人間が排出した汚物の付いた紙が、自分のすぐ目の前に、あるいはすぐ横に積み上げられているとすれば、これを不快に感じない人間は普通の感覚の持ち主なのだろうか」
 これは、朝鮮日報に《 いまなお恥ずべき韓国のトイレ文化 》と題し、識者の意見として掲載されたある画家の声だ。 便器そばのごみ箱の存在に 「 われわれが何も感じないのは、完全に慣れ切っているからだ 」 とも言う。

 「そこから数々の細菌がばらまかれている。 これに若い女性でさえ、何も感じないとすれば、その習慣や文化はどう考えてもおかしい とまで自国の習慣を手厳しく批判している。

 4月には、韓国の高速道路全国180ヵ所のサービスエリアを管理する韓国道路公社が、全トイレを 「 高級ホテル並み 」 に改装する 「 トイレ文化革新案 」 を公表した。

 約500億ウォン( 約47億円 )を投じ、韓国の伝統家屋風に改装したり、自動点灯にしたりする計画だが、女性の衛生用品のためのエチケットボックスを除いて、 「 トイレのごみ箱 」 を撤廃するのが柱の一つだという。 東亜日報によると、利用者アンケートの結果、63%が撤去に賛成した。

 これに先立ち、ソウルの地下鉄の一部を運営するソウル都市鉄道公社では、14年から段階的にごみ箱を撤去してきた。 「 日本などの公衆トイレでは悪臭がなく、床にごみが散乱していないことに着目した 」 ( 公社顧客満足処長 )のがきっかけだったという。

 試験導入時には、女性利用者の約8割が 「 快適になった 」 と答えた。 水に流すようになると、ごみ箱のトイレットペーパーを別途、回収する手間が省け、従業員らの満足度も上昇したという。




 韓国でも 「 トイレのごみ箱 」 撤去支持派は、多数派のようだが、なぜにこんな “悪習” が放置されてきたのか ──。

 背景には、 「 トイレットペーパーを便器に流すと詰まる 」 という根深い “迷信” があるというのだ。

 私も韓国で、 「 海外に比べて水圧が弱く、紙を多めに流すと詰まる 」 という説明を聞いたことがある。 このため、おっかなびっくりに、紙を流していた経験もある。

 朝鮮日報は最近、この迷信を 「 科学的 」 に論破する記事を掲載した。 専門家は 「 トイレットペーパーのせいで便器が詰まるというのは絶対にあり得ない 」 と断言。 そもそも、水への耐性を高めたティッシュペーパーやハンドタオルと違って、トイレットペーパーは、すぐに水に溶けるという韓国の国家技術基準をクリアしたものだという。

 ビーカーに入れ、600回かき混ぜ、100秒未満で全て溶けなければ、製品としてパスできない。

 「 便器が詰まった 」 として業者が駆けつけても、 「 犯人 」 がトイレットペーパーということはまずなく、たばこの吸い殻やストッキングだったり、おもちゃのブロックや財布、携帯電話だったりすることもあるという。

 では、トイレにごみ箱が置かれるようになった由来はどこにあるのか ──。

 トイレ文化市民連帯の代表は同紙の取材に 「 トイレットペーパーが貴重だった1970年代に新聞紙などを代わりに使い、別途捨てていた 」 ことが習慣につながったと説明する。

 当時、大半がくみ取り式だったこともあり、回収業者が紙と混ざるのを嫌い、家庭で紙を別に燃やしていたともいう。 この 「 分別 」 する習慣が、水洗が普及した後も廃れることなく、続いてきたというのだ。

 ただ、習慣とは恐ろしいもので、地下鉄での本格撤去が始まる前に、8駅で試験的にごみ箱をなくした際には、 「 不便だ 」 といった苦情が起き、2ヵ月でごみ箱を再設置したこともあった。 家庭内でも、年配者が子供たちに 「 トイレに紙を流すな 」 と叱りつける情景も見られるという。

 しかし、外国人から韓国式トイレ習慣が 「 不潔だ 」 といった “汚名” を着せられているのは事実だ。 韓国人の中でも、快く思っていない人が多いようだ。

 辛い韓国料理を食べると、おなかが緩くなる私にとっても、一日も早い隣国トイレの文明開化を願いたい。