( 2015.06.30 )




  



野党の民主労働党議員が催涙弾を持ち込み破裂させる
騒ぎが起きた本会議場
 乱闘でコルセットを余儀なくされた国会議員というのは、さすがに初めて見た。 衆院厚生労働委員会の渡辺博道委員長( 自民 )のことだ。

 渡辺氏が、労働者派遣法改正案の採決が予定されていた委員会室への入室を民主党議員に阻止され、激しいもみあいの中で首を負傷したのは、ご案内の通り。 渡辺氏は 「頸椎けいついねんざ、全治2週間」 の診断書を携えて記者団の前に現れた際、 「首にコルセット」 というインパクト十分の格好で登場したものだから、 “乱闘国会” の印象が俄然、高まってしまった。

 さらに、民主党議員がこの “暴力行為” を計画的に実行していたことが、事前に準備した手書きのメモから判明。 それにもかかわらず、岡田克也代表が 「公正な議会の運営を確保できるかが問題だ。 それをせずこちらだけ責められても困る」 などと開き直っているものだから、この騒動はまだまだ収まる気配がない。

 こうして日本では久々に乱闘国会の問題点が議論されているわけだが、 世界を見渡せばやはり、 上には上がいるものだ。 言論の府で武力行使に踏み切ることにかけては世界最強、 いや最悪と噂される国。 そう、お隣・韓国だ。


 

 「韓国国会は22日、抗議する野党議員の投げた催涙弾が議会で爆発した数分後、米韓自由貿易協定( FTA )の批准案を可決した。 ( 中略 )採決前には、強行採決に抗議して、議長席そばに催涙弾が投げ込まれた。 議員らがせきこみ、目をこする中、催涙弾を投げ込んだ野党議員は取り押さえられ、抗議の声を上げながら警備員に議場の外へ連行された」

 以上の記事は現実に起こった話だ。 2011年11月22日、AFPが伝えた。

 このときの様子が動画に残っている( http://www.youtube.com/watch?v=j9Bxx35VGAA )。


 本会議中に突然、 「パン」 という破裂音がしたかと思うと、演壇の周辺にもうもうと煙のような白いものが立っている。 ゴホゴホと咳き込む人々。 演壇に立っていた議員のスーツも白く汚れている。 一見すると何かのコントのようにも見えるが、これが世界を震え上がらせる韓国・武闘派国会の実態だ。

 2日後の24日、中央日報は 「恥ずかしさに泣く韓国民主主義」 と題する記事を掲載した。 この中で、各国メディアの報道ぶりを伝えているが、それによると、米ニューヨーク・タイムズは 「国会議員によって立法府の本会議場で催涙弾が使われたのは初めて」 と報じた。 それはそうだろう。

 また、 「野党議員が討論する人たちを窒息させようとした」 とする英デーリー・メールの記事も伝えている。 確かに動画を見ると、口元を押さえ、苦しそうにもがく人々の姿が映っている。 もはや犯罪というレベルを超越し、戦闘行為と見紛うばかりの光景だ。




 時代をさかのぼると、もっと強烈な事件が発生している。 1966年の 「国会汚物投擲事件」 がそれだ。

 肥料会社のサッカリン密輸事件に関して質問していた金斗漢という国会議員が突然、閣僚席にいた数人にアルミ缶につめた人糞を投げつけたものだから、これはひとたまりもない。 閣僚たちは事件への関与が疑われており、 「汚職」 には 「汚物」 とばかりに蛮行に及んだといわれる。 当然ながら、金氏は逮捕され、国会議員を辞職。 ただ、当時の共和党内閣も総辞職を余儀なくされたというから、金氏の行為は文字通り、くさい物のふたを開ける効果はあったということか。

 ただ、驚くのはまだ早い。 韓国の乱闘国会では、よくぞここまでという武器も登場する。


 


会議室の扉をハンマーで破壊しようとする議員。韓国の国会ではこうした
“武力行使”も飛び出す
 2008年12月の韓国国会は大荒れだった。 米韓FTA交渉をめぐって、前代未聞の大立ち回りが国会内で演じられたのだ。

 当時の映像や報道を総合すると、与党議員が会議室にバリケードを築いて籠城態勢に入ったところからバトルが始まる。 野党議員はハンマーやチェーンソーを使って扉を破壊しようと試みるが、与党議員は会議室内から消火器を噴射して応戦。 これに野党議員が放水射撃で対抗したものだから、周囲は視界もままならずバイオレンスなムードが漂った。 顔面から鮮血をしたたらせる議員もいて、シャレにならない事態になっている。




 これ以外にも、議員同士のつかみあい、殴り合いは韓国国会では日常茶飯事。 そのたびに、ワイシャツがビリビリに破けた議員の姿が、全世界に配信された。 数年前にはニュージーランドのワイシャツ会社のCMに韓国国会の映像が採用され、 「どんなことがあっても破けません」 というパロディーになったという逸話まである。

 2013年11月には、なんともバツの悪い醜態をさらしてしまった。



 このとき、キルギスのアタムバエフ大統領が韓国を訪問し、朴槿恵大統領と会談。 中央アジアからやってきた大統領は 「韓国は自由と民主主義の模範です」 「韓国の民主主義を学びたい」 と話し、国会議事堂を見学することになった。

 悲劇はそこで起こった。 大統領が目にしたのは、いわゆる野党が 「審議拒否」 した状態の本会議場。 実は大統領が議場を訪れる直前、与野党の議員の間でひと悶着が起こっていた。

 当時の中央日報の記事によると、ある議員が別の議員を名指しして、 「青瓦台( 大統領府 )の警備員を殴った」 と暴露したのが発端。 後は、 「嘘をつくな」 「ついてない」 の罵り合いとなり、野党議員の多くが会議をボイコットしたというが真相らしい。

 そこに登場したのがアタムバエフ大統領というわけだが、 「韓国の民主主義の実態」 を目の当たりにした大統領はきっと、いたたまれなくなってしまったのだろう。 10分ほどで本会議場を退出したという。 本当に気の毒な話である。





消火器攻撃や放水で混乱の極みに達する韓国国会
 世界を震撼させてきた韓国・武闘派国会。ただここ数年は、暴力沙汰はほとんど沈静化している。

 実は 「国会先進化法」 と呼ばれる法律が2012年5月に成立している。 時期的には、先に紹介した 「催涙弾事件」 の後ということになる。

 法律では 「与野党間で意見の食い違いがある法案を本会議に上程する場合、在籍議員の5分の3以上が賛成しなければならない」 と規定されている。 乱闘につながりがちな対決法案の緊急上程、強行採決を防ぐ措置なのだろう。

 ただ、暴力こそは影を潜めたものの、あまりに高いハードルであるため、今度は肝心の法案処理がままならなくなった。 2014年の7月国会で法案処理にいたった案件はゼロ。 続く9月国会で90本余りの法案を一気に成立させるという荒業を繰り出さざるを得なかった。

 





 長々と隣国の実情を紹介してきたが、かつての日本でも乱闘国会は珍しくはなかった。 特に昭和35年の安保国会までは、数多くのけが人を出してきた。 さすがに、催涙弾やハンマーといった武器の使用例はないが、最近まで、国会職員に対する危険手当の一種として 「乱闘手当」 が支給されていたことは知る人ぞ知る話だ。

 一言で 「議論を尽くす」 と言っても、それを達成することは極めて困難だ。 異なる意見があれば、どちらかが降参するまで、延々と同じことの繰り返しに陥る可能性がある。 だからこそ、妥協点を模索する知恵が求められるし、結論を出すためのルールも定められている。